2022/11/04 コラム
再逮捕?この事件では初めての逮捕なんだけど。
私たちは、再逮捕という言葉をよく耳にする。例えば、次の記事である。
別の小学校でも女子児童にわいせつ行為 32歳講師の男を再逮捕 授業中に胸などを触った疑い
https://news.yahoo.co.jp/articles/a207c53df37d3e789f37766b42b60ee532829a60
大阪府内の小学校で女子児童にわいせつな行為をし、逮捕・起訴された講師の男が、別の小学校でも児童の胸などを触ったとして、再逮捕されたという。N容疑者(注:記事中では実名)は去年9月から今年3月までの間に、当時の勤務先だった大阪府内の小学校の教室で、授業中に女子児童の胸や下半身を触る、わいせつな行為をした疑いが持たれ、警察に対し、容疑を認めているということで、別の小学校でも同様の行為を繰り返したとして、すでに逮捕・起訴されているという。
既に逮捕されている者が逮捕された場合、それは再逮捕と呼ばれる。
しかし、この用語法は、法律上、誤りである。
逮捕は、事件単位で行われる。刑事訴訟法200条が、逮捕状の記載事項として被疑事実の要旨を要求していることがその根拠である。前回のコラムで説明した通り、逮捕は罪証隠滅や逃亡を防止することを目的としているところ、これも、特定の事件についての罪証隠滅や逃亡を問題としている(そもそも漠然とした罪証隠滅とか逃亡というのは概念としてもあり得ない。)。
A事件について既に逮捕されている者を、A事件についてさらに逮捕すれば、それは再逮捕である。A事件について既に逮捕されている者を、B事件について逮捕することは、新たに逮捕したというだけであり、再逮捕とは言わない。
同一事件について逮捕・勾留は1回のみ許され、再逮捕、再勾留は許されない。これを一罪一逮捕の原則という。再逮捕は原則として禁止されているのである。逮捕によって被疑者を留置できる時間は72時間以内とされているところ、再逮捕が許されては、時間制限が無意味となるからである。
もっとも、刑事訴訟法199条3項は「検察官又は司法警察員は、第一項の逮捕状を請求する場合において、同一の犯罪事実についてその被疑者に対し前に逮捕状の請求又はその発付があつたときは、その旨を裁判所に通知しなければならない。」と規定しており、再逮捕があり得ることを前提としている(刑事訴訟規則142条1項も、「逮捕状の請求書には、次に掲げる事項その他逮捕状に記載することを要する事項及び逮捕状発付の要件たる事項を記載しなければならない。」とし、その8号で「同一の犯罪事実又は現に捜査中である他の犯罪事実についてその被疑者に対し前に逮捕状の請求又はその発付があつたときは、その旨及びその犯罪事実」としている。)。例外的に再逮捕が認められる場合について、裁判所は、「先行の勾留期間の長短、その期間中の捜査経過、身柄釈放後の事情変更の内容、事案の軽重、検察官の意図その他の諸般の事情を考慮し、社会通念上捜査機関に強制捜査を断念させることが首肯し難く、また身柄拘束の不当なむしかえしでないと認められる場合に限るとすべきであると思われる。」(東京地裁昭和47年4月4日決定判例タイムズ276号286頁)と判示している。
上記記事に戻って考えてみると、今回逮捕されたのは、「別の小学校での」事件についてであるから、同一の事件についてさらに逮捕したのではなく、別事件についての新たな逮捕である。よって、再逮捕という用語法は誤りなのである。
マスコミが再逮捕と言うとき、そのほとんどは新たな逮捕であって、法律上の再逮捕ではない。このマスコミの用語法が余りに定着しているため、私も、依頼者への説明のときはマスコミの用語法によっているのだが。
以上