2023/05/22 コラム
性犯罪規定の年齢要件改正案についての私見
2023年3月14日、性犯罪規定の刑法改正案が閣議決定された。議論すべき点は山積みであるが、このコラムでは、いわゆる年齢要件について取り上げたい。
年齢要件とは、(現)強制性交等罪や(現)強制わいせつ罪の成立に暴行脅迫が不要とされる年齢のことである。現行法では、13歳未満の者とされている、「13歳未満の者については,性的な事柄及び性交を行うか否かについて十分な判断能力が認められないという前提の下に,このような「絶対的な保護」が与えられているのである。」と説明される(『刑法各論[第2版]』106頁・109頁。山口厚著、有斐閣、2010年3月)。
この年齢要件について、改正案は次の通り定める。
1
13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者は、6月以上10年 以下の拘禁刑に処するものとし、13歳以上16歳未満の者に対し、当 該者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者が、わいせつな行為 をしたときも、同様とするものとすること。
2
13歳未満の者に対し、性交等をした者は、5年以上の有期拘禁刑に 処するものとし、13歳以上16歳未満の者に対し、当該者が生まれた 日より5年以上前の日に生まれた者が、性交等をしたときも、同様とす るものとすること。
要は、16歳未満の者についても、5歳以上歳の離れた者がわいせつな行為や性交等をする場合は、暴行脅迫等、改正案ではいわゆる「不同意」を要せず、犯罪となるということである。
しかし、待って欲しい。年齢要件は、「性的な事柄及び性交を行うか否かについて十分な判断能力が認められない」という理由で儲けられたのではなかったか。どうして、同じ行為について、5歳以上離れているか否かで、十分な判断能力の有無が生じるのか。ところで、セーラームーンの月野うさぎは中学生で、タキシード仮面は大学生であったはずであるから、改正案によれば有害図書になってしまいそうである。
では、「当該者が生まれた 日より5年以上前の日に生まれた者が」との要件をなくしたならばどうか。上記の疑問は解消される。しかし、中学生カップルがキスした場合、双方が不同意わいせつ罪に問われることになってしまう(強いてキスをさいた行為について強制わいせつ罪の成立を認めた事案につき、東京高裁昭和32年1月22日判決判例タイムズ68号100頁)。少なくない中学生カップルが家庭裁判所に送致されることになる。これに対し、構成要件に定められたからと言って全て事件化されるわけではないという意見があるようであるが、それは罪刑法定主義の放棄であり、法の支配の放棄である。警察官や検察官、裁判官がよしなに判断してくれるだろうという主張は、共謀罪(テロ等準備罪)を作って警察官や検察官、裁判官がよしなに判断してくれるだろうと言うに等しい。
ならばお前は16歳未満の子どもに対する性暴力を認めるのか!などと言われそうだが、そうではない。青少年(18歳に達するまでの者)の健全育成は、青少年保護育成条例の管轄である。例えば、福岡県青少年保護育成条例は、「何人も、青少年に対し、淫行又はわいせつの行為をしてはならない。」と定め、これを犯罪とし、刑罰を科している。違反者が青少年であるときは、これに対して罰則を適用しないこととされている。ここで言う「淫行」とは、青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似制為をいうとされている(最高裁昭和60年10月23日大法廷判決最高裁判所刑事判例集39巻6号413頁)。淫行処罰の趣旨は、「一般に青少年が、その心身の未成熟や発育程度の不均衡から、精神的に未だ十分に安定していないため、性行為等によつて精神的な痛手を受け易く、また、その痛手からの回復が困難となりがちである等の事情にかんがみ、青少年の健全な育成を図るため、青少年を対象としてなされる性行為等のうち、その育成を阻害するおそれのあるものとして社会通念上非難を受けるべき性質のものを禁止することとしたものである」から、「「淫行」を広く青少年に対する性行為一般を指すものと解するときは、「淫らな」性行為を指す「淫行」の用語自体の意義に添わないばかりでなく、例えば婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある青少年との間で行われる性行為等、社会通念上およそ処罰の対象として考え難いものをも含むこととなつて、その解釈は広きに失することが明らかであり、また、前記「淫行」を目して単に反倫理的あるいは不純な性行為と解するのでは、犯罪の構成要件として不明確であるとの批判を免れない」からである。
子どもに対する性暴力を規制すると言うのであれば、青少年保護育成条例が既にあるのであって、その趣旨にも適う。もっとも、青少年保護は地方自治体に委ねるべきというより国家が責任を持つべき事柄であるから、立法によるべきであろう。要は、判断能力の有無の問題と、青少年の健全育成の問題を混同すべきではないのである。
16歳未満の者による性交により彼女が妊娠することの問題も指摘される。しかし、それは避妊しないことによる問題であって、性交そのものの問題ではない。しかも、性犯罪規定は性交の他にも肛門性交や口腔性交、さらにはわいせつな行為も犯罪としているのであるから、一貫しない。妊娠の回避は、性教育によるほかない。
子どもが性的行為を行うことを問題視するというのは理解できる。しかし、それを犯罪とするというのは、大きな飛躍がある。目的達成のための手段として適切かを、よく考えるべきである。
以上